もくし・ロープホルター・馬わらじ制作ワークショップ

もくし

 「牛の結び方」では明治期の御雇外国人由来の可能性が指摘されていますが、「もくし」という名称はあるいはそうなのかもしれませんが、2本取りのロープ頭絡自体は、江戸期からあったようで、「図説 日本の結び」(藤原 覚一、築地書館、1974)に「武器袖珍」所収の「おもがい代用の麻籠頭〈あさおもづら〉」が紹介されています。

 「牛の結び方」に載っているのは牛用の顎の下がV字状となっているものですが、私が見つけた限り、これは馬では仔馬にのみ使われ、大人の馬には長い顔に合うように、頬~顎下~頬にもロープがあって、既製品の無口頭絡と同様の構成のものが主に使われたようです。

 同じ構成でも、編み方は少なくとも2種類あります。どこか(通常は項)においてロープ末端同士を「さつま」で接続する、全体が2本取りのものと、鼻の上だけは3本取りとなっていてロープ末端が垂れるタイプです。また、鼻の下の部分が固定されるか、遊動式かという別もあります。私が見たことがあるのは、鼻の上3本取りで遊動式のものですが、任意に組み合わせることが可能です。

 原理的に見れば、鱗結び(「牛の結び方」では「三つ編み」)で分岐を増やし、五行結びで分岐を減らすという組み合わせですから、額革相当部分を付け足す等、好きに構成することもできます。革の「おもづら」や、ヒョウシやウムイのような棒締め頭絡への発展も用意です。きちんと構成図と組立図を起こせばいいのです。

 鱗結びを「どう結ぶか」を工夫すれば、「おもがい代用の麻籠頭〈あさおもづら〉」のようものも作れますが、実用的な使役においては、おそらく、簡単な鱗結びで作れる範囲内のものが主用だったと推測しています。「牛の結び方」でも、あるいはネット上に見る動画でも、みなさん鱗結びに苦労しておられますが、簡単に「手の中で」結ぶ方法があるのです。その結び方を使えば、もくしひとつ、ざっと編むのに数分しかかかりません。2本取りのもので2~3分、鼻の上が3本で鼻の下が遊動式のもので3~4分といったところでしょうか。ハミは高さ調整が厳密なので試行錯誤に手間がかかりますが、それでも小一時間もかかりません。棒締め頭絡でありればもっと簡単です。棒締め頭絡製作がうんと大変だとアピールしているようなサイトも見受けられますが、おかしな話です。簡単に作れるというのも優れた民具の必要条件なのですから。

 また、編んでからロープを切ればすみます。長いロープの束から次々に編むときに、無駄となる長さが節約できるでしょう。

 

 構成図と組立図をもとに、「手の中で」鱗結びというのが肝心なところなのです。

 

 

左から。

ハミつき額革つき、頬で止めるもくし。

鼻上が3本取りで話したが自由遊動のもくし。

 

いちばんシンプルな2本取りもくし。

ロープホルター

 ロープホルター、一部ではナチュラルホースマン式のホルターとも言うようですが、もくしとはまたパターンが異なる無口頭絡です。rope halter と綴りますが、発音はホルターに近いようです。

 多少の改変で、乗るときにも使えるビットレスブライドル(ハミなし頭絡)にも発展させられます(ハミなし頭絡が万能であるかのように書いているサイトもありますが、そんなことはありません。理屈と馬の反応の両方を理解した上で使い分けるべきでしょう)。

 このポイントは、鼻の下に作る Fiador k意味します。not です。Fiador とはスペイン語で端綱、つまり家畜を引く引き手を意味します。実用的には他の結びでも差し支えないのですが、まあ、ここが、国内外問わず、みなさんが拘るポイントのようです。

 ところが、その割には、アメリカから投稿の動画でさえ、みなさん、大変な苦労をして結んでいます。テーブル上に平らに広げて置いてから、あっちをつまんだり、こっちをつまんだり・・・。この結びだけに何分もかけています。

 もくしにおける鱗結びと同様、この Fiador knot にも、「手の中で」結ぶ方法があり、そうすれば簡単なのです。Fiador knot に一分、ホルター全体編むのに4~5分といったところでしょうか。

 

 ロープホルターでも展開図と組立図は有用です。また、細かな結びの選択で左右が入れ替わるのが特徴で、そこを押さえておかないと途中でロープが足りなくなったりします。そうならないようにうんと長い余裕を見込んで編むこともできますが、完成後には切って捨てるしかないのですから勿体ない話で、最初からちゃんと考えて編めばいいだけのことですね。

 

馬わらじ

 馬わらじ、あるいは馬沓は、蹄鉄が普及する以前の日本では唯一の護蹄手段であり、また、積雪・凍結時の滑り止めでもありました。

 少し前、古い布を裂いて編む草履が流行りましたから、もくしやロープホルターと違って、わらじを手早く編めるかたは大勢おられるだろうと思います。が、細長い人用のわらじと異なり、馬わらじは丸いので、ちょっと違ったコツが必要になります。また、サイズののフィッティングの考え方も人用のわらじとは異なっています。

 単なるノスタルジーでなく実用目的の馬わらじも考えられます。たとえば蹄病時の護蹄です。蹄底に獣医学的な処置をした場合、糞尿や泥等による汚染を避けたいわけですが、包帯ではすぐに擦り切れてしまいます。樹脂で完全に覆う方法は、しばしば密着が完全でなく中で嫌気的に腐敗します。各種のホースブーツ、蹄鉄ではないホースシューズもありますが、相当に高価で、大きさに限りがあるので、前後それぞれの蹄にぴったり合うものを手に入れるには手間もお金もかかります。

 馬わらじであれば、編む手間さえ惜しまなければ、ミニチュアホースの仔馬だろうが、特大の重種だろうが、ぴったりのものを履かせてやることができます。

 さらにシンプルな在来型の編み方に囚われる必要はありません。大きな重種には、縦芯(編まれる側の芯)を通常より増やして6本にするといった工夫が考えられます。

 汚染防止に重点を置くなら、二段重ねに編むことも可能です。その真ん中にゴム等の防水層を設ける、下の段をシリコンコーキングで埋めてやるといったこともできるでしょう。

 そういった凝った馬わらじを作るにはそれなりの時間が掛かりますが、シンプルなものでおはぎサイズで、かつ、藁と違って滑りのいいロープであれば、15~20分で編むことができます。編み台があればなお結構ですが、なくても、足の指で十分です。